「地元愛」あふれるエリアマネジメントで変わる西新宿の現在、そして未来

新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑みて、会場展示(オフラインイベント)は中止し、オンラインイベントのみの開催となります。あらかじめご了承ください。

写真

「エリアマネジメント」という言葉を知っていますか?その街で働く、または暮らす人々が主体となり、課題を解決したり、魅力的なまちづくりを目指したりする取組のことです。

今回「5G Connected City 西新宿2022 ~つながるまちと新たな生活~」が開催される、西新宿エリアにおけるエリアマネジメントの中心となる、一般社団法人・新宿副都心エリア環境改善委員会 技術担当理事の小林洋平さんに、エリアマネジメントによって進化する、西新宿エリアの現在とこれからについて、お話を伺いました。

【新宿副都心エリア環境改善委員会とは】
2010年に発足した、西新宿におけるエリアマネジメントの中心となる組織。西新宿に拠点を置く19の会社で構成されており、これからの西新宿に必要なまちづくりを実現するための調査や活動、情報発信に取り組んでいます。 http://welcometoshinjuku.jp/

時代とともに変わっていった都市の価値観 いま求められるのは「機能」よりも「人間」の重視

西新宿のエリアマネジメントについてお話する前に、まずは西新宿の歴史について簡単に振り返っておきましょう。

現在の西新宿エリアは、1960年に決定された「新宿副都心計画」から生まれた街です。丸の内に集中していた、都市の機能を分散させることが目的でした。幅の広い道路を中心に超高層ビルが建ち並ぶまちづくりは、当時の都市に求められていた、ビジネス拠点としての機能性を第一に考えた結果といえます。

写真

しかし時代とともに、都市に求められる価値のメインは「機能」から「人間」へと変わっていきました。自動車の行き来を優先した大きな道路や、働く人々を1ヶ所に効率よく集めるための超高層ビルですが、人の行き来という観点からは不便に思えるシーンが増えていきました。

そのため、いつしか西新宿は、昼間はビジネスパーソンであふれるものの、夜や休日は閑散とした状態になる、ビジネス目的以外の人が集まりにくい街になってしまいました。西新宿で働き、暮らす人々にとって、これはとても残念なことだと思いませんか?

そこで始まったのが、この地にかかわる人々が主体となり、西新宿を再び魅力的な街にすることを目指すエリアマネジメントなのです。

既存の資産を“逆転の発想”で有効活用 目指すのは「居心地が良く歩きたくなる」西新宿

エリアマネジメントを始める際に、最初の方針として決めたのが「居心地が良く歩きたくなる」まちづくりです。

そこで注目したのが、西新宿ならではの存在といえる「オープンスペース」です。大きな道路や超高層ビルが建つ民間の敷地内にある通路や空き地を、逆転の発想で有効活用する。そうすれば、むしろ他のエリアにはない、西新宿ならではの魅力を持つまちづくりができるのでは?と考えたわけです。

具体的には新宿駅と新宿中央公園という2つの「核」の間に位置する、超高層ビルや大きな幅の道路があるゾーンを、人が移動しやすく集まりやすい「モール」のようにすることで、西新宿エリア全体の行き来の活性化を目指しています。

写真

たとえば、光を通す材質でできた屋根でオープンスペースを覆うことで、雨でも利用できる開放感のある「アトリウム」と呼ばれる空間をつくりました。新宿住友ビルの敷地に誕生した「三角広場」は、その一例です。

写真

2020年に42階から移転しリニューアルオープンした「SOMPO美術館」も、エリアマネジメントの成果のひとつといえます。超高層ビルも、地上の敷地や低層部を活用する発想へとシフトが進んでいます。

写真

幅の広い道路や大きな公園も恰好なオープンスペースですから、道路や公園を利用した様々なイベントも、積極的に行っています。新宿中央公園の芝生広場に誕生した複合施設「SHUKNOVA(シュクノバ)」も、エリアマネジメントの取組から生まれました。

写真

Photo ©2020 Nacása & Partners Inc.

街全体をリニューアルする大きな取組をするうえで、欠かせないのが官民連携です。民間企業だけでできることには限界がありますし、そもそも西新宿には、大きな道路や公園を含め、東京都や新宿区が管理するオープンスペースがたくさんあるからです。

写真

幸い、環境改善委員会は早くから官民連携をとっており、東京都や新宿区、そして国とも密接な関係を保ちながらエリアマネジメントを続けています。

「スマート東京」プロジェクトとも連携

最先端のデジタル技術でさらに魅力的なまちづくりを

これまでの経験から、まちづくりは3層構造であると考えています。まずベースは、都市空間を「居心地が良く歩きたくなる」ように、改善することです。その上に、都市サービスを加えていくこと、それは道案内のような簡単なことも含みます。その空間とサービスが相まって、人がいきいきと活動することで、その交流からライフスタイルやイノベーションが生まれると考えています。

西新宿のオープンスペースを活用するうえで大切なのが、サービスの部分です。

たとえば西新宿はビジネスの街なので、休日や夜間には人が集まりにくいと思われていました。しかし人の流れを調べ、訪れた人たちにアンケート調査をした結果、土日には周辺で暮らすファミリー層の行き来が、予想以上に多いことがわかりました。

こうしたリサーチの結果を、これからのサービスに反映させれば、西新宿をさらに賑わいのある街に変えることができるでしょう。

西新宿ならではのオープンスペースにサービスを組みあわせた、新しいまちづくりを目指す上で、現在積極的に取り組んでいるのが、デジタルの領域です。

写真

その点では、東京都が「スマート東京」プロジェクトを推進し、西新宿が先行実施エリアに選ばれたことも、私たちにとっては幸運でした。

「スマート東京」との連携で代表的なのが、現在エリア内に設置が進む「スマートポール」の活用です。搭載された各種のセンサーを使うことで、人やモノの流れを今まで以上に効率よく、しかもリアルタイムで把握できます。アナログな手法では難しかった調査も、より簡単かつ深く行えるようになるでしょう。そこから得られたデータを蓄積・活用することで、さらに暮らしにフィットするまちづくりができると期待しています。また、環境改善委員会が主催した自動運転タクシーや、電動キックボードの公道実証実験は、5Gのメリットやデジタルの領域ならではの取組です。

このように、「スマート東京」プロジェクトの大きな柱となる、5Gによる「電波の道」がさらに整備されれば、高速・大容量やリアルタイム通信、同時多数接続といったメリットを生かし、西新宿のサービスを、さらに進化させることが可能になります。たとえば、アトリウムのあるオープンスペースを使って、大規模なeスポーツの大会を開催したら、面白いかもしれませんね。

今回の「5G Connected City 西新宿2022 ~つながるまちと新たな生活~」には、現在私たちが取り組んでいるエリアマネジメントに関する展示もあります。イベントに参加すれば、西新宿のごく近い未来の姿を感じていただけるのではないでしょうか。

エリアマネジメントの原動力は「地元愛」 西新宿という街の「伸びしろ」に魅力を感じてほしい

現在の新宿副都心エリア環境改善委員会は、西新宿エリアに拠点を置く19社で構成されています。今後は、もっとたくさんの企業や人たちを巻き込んで、一緒にまちづくりを考えていきたいと思っています。

個人的な構想ですが、人と人とのつながりという点では西新宿エリアで働き、暮らす人たちが活発に交流できる「西新宿クラブ」をつくってみたいんです。交流の場としてだけでなく、誰もが気軽にまちづくりに参加できるしくみをもったコミュニティです。こんな感じで、委員会のメンバーが集まると、西新宿のまちづくりに対して抱くプランや夢を語り合うことが多いですね。一言でいえば、とにかく皆さん「地元愛」が強いんですよ(笑)。だからこそ、これまでのエリアマネジメントが上手くいってるんだと思います。

西新宿の魅力って「伸びしろ」にあるんじゃないかと。この街を良くしようという気持ちでチャレンジすれば、その分だけ成長が望めるポテンシャルを持っているということですね。おそらく、この街を愛してる皆さんも西新宿の「伸びしろ」に魅力を感じているのではないでしょうか。

現在西新宿で働き、暮らす人々のためだけではなく、これから西新宿で働きたい、暮らしたいと思ってくれる人が一人でも多くなるように、これからも官民一体の取組を続けていきたいと思います。

一般社団法人・新宿副都心エリア環境改善委員会技術担当理事 小林洋平(こばやし ようへい)

写真

2010年の設立時から、新宿副都心エリア環境改善委員会に従事。2014年の一般社団法人化にともない、事務局長に就任。2021年には、技術担当理事に就任した。趣味は山と温泉めぐり、そしてラグビー観戦。

新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑みて、会場展示(オフラインイベント)は中止し、オンラインイベントのみの開催となります。あらかじめご了承ください。

記事ID:110-001-20231205-007795