新春対談
新年を迎えた今号では、府中市をマザータウンとして活動するプロバスケットボールチームのアルバルク東京から、代表取締役社長の林 邦彦さん、アシスタントゼネラルマネージャーの伊藤大司さんを迎え、高野市長との新春対談をお届けします。お二人に、府中市の印象や東京2020オリンピック・パラリンピック関連、世界とのつながりなどについて語っていただきました。
2021年を振り返って
―――2021年はどのような年でしたか。
市長:新型コロナウイルスの感染が拡大し、今までにない経験でしたので、本当に厳しい年だったと思います。働き方や暮らし方など、いろいろなことを原点から考える年にもなりました。しかしながら、市民皆様のご協力のおかげもありまして、ワクチン接種が順調に進み、9月末で東京都に対する緊急事態宣言が解除され、10月以降は何か新しい光が差し込んできたような感じもしていまして、今振り返ると、新しいエネルギーが充満してきたような年であったと思います。今年は、極めてよい年になると期待しています。
林:私どもアルバルク東京も、新型コロナウイルスに翻弄された1年であったと思います。入国制限などで、予定していた外国籍の選手が入国できず、練習が予定どおりできないこともありました。また、昨年は、Bリーグが開始してから初めてチャンピオンシップ出場を逃すという悔しい思いもしました。今年は、昨年始まったBリーグ2021-22シーズンで、今シーズンのスローガンとしている「DRIVE TO TOP」として、王座奪還を目指して頑張っていきたいと思っています。
伊藤:世の中が新型コロナウイルスにより変化が求められた年、アジャスト(適合)を求められた年だったと思います。私自身も、11年間続けてきたバスケットボール選手としての現役生活を終え、アルバルク東京のアシスタントゼネラルマネージャーに就任したということで変化もありました。これから新しい道へのアジャストが必要になってくる年になると思います。2022年はしっかりアジャストして、アルバルク東京の優勝に貢献できるように頑張りたいと思います。
府中市の印象
―――アルバルク東京の皆さんにとって、府中市が主な練習の拠点になりますが、どのような印象をお持ちですか。
林:私は、同志社大学出身なので関西出身だと思われることが多いのですが、生まれも育ちも町田市で、府中市と非常に近いところで今も生活しています。また、バスケットボールの運営会社の社長をやっているにもかかわらず、小学校からサッカーをやっておりまして、府中市といえば、「府ロク」という、澤 穂希選手や中村憲剛選手を輩出した非常に有名なサッカークラブがあるということがものすごく印象深いです。また、私が入社した三井物産は、若松町に総合グラウンドを持っていたので、現在は「内海・島岡ボールパーク」という、明治大学野球部の拠点になっていますが、若い頃はそこで休日を過ごしていました。今、その府中で仕事していることに、非常に縁の深さを感じています。
―――伊藤さんは長くアルバルク東京に所属されており、府中市で練習する機会が多かったと思いますが、どのような印象を抱いていますか。
伊藤:今から約11年前、アルバルク東京に入団して府中市に来ました。すごく温かく迎え入れていただき、そこから7年間の現役生活を送り、僕自身育ててもらったところでもあると思っています。現役時代は、参加したイベントやホームゲームとして市内で開催された試合で、市民の方と交流し、温かい声を掛けていただいたり、応援してるよと言っていただいたりして、すごくうれしい気持ちになりました。府中市は、アルバルク東京にとってもマザータウンとして育ててもらった場所でもあるんですけど、僕自身も育てていただいた街であると感じています。
市長:マザータウンという名称、街の人々がアルバルク東京に愛着を持ち、そして市民の皆さんの応援が選手・チームを育てていることを、すごく誇りに感じます。
東京2020オリンピック・パラリンピックに関連して
―――東京2020オリンピック・パラリンピックは新型コロナウイルスの影響で、聖火リレーの公道走行中止や無観客開催など多くの変更を余儀なくされました。その中でも開催された意義というのはどのように感じていますか。
市長:無観客となりましたが、選手の皆さんが目標としていた最高の舞台で、積み重ねてきた練習の成果を発揮できたことはすごく良かったと思います。選手皆さんのすばらしい演技や、競技、その輝きを我々が知ることができた、見ることができたことは宝物だったと思います。府中市でも聖火リレーや競技の観戦などを予定していましたが、かないませんでした。しかし、ボランティアの皆さんの非常に温かい支援を感じることができ、これもまた府中市の財産になったと思います。また、本市はオーストラリアとオーストリアのホストタウンとしての役目もいただきました。オーストラリアの車いすバスケットボールのコーチからは「府中はいい街だよ」と言っていただき、また、オーストリアの卓球の選手たちも市内で事前キャンプを行ったことから交流が生まれ、世界とのつながりを感じることができたいい大会だったと思います。
―――東京2020オリンピックには、アルバルク東京に所属している田中大貴選手が出場されましたが、出場されたご本人の変化や、アルバルク東京にもたらした影響などはありますか。
林:田中選手は私がアルバルク東京に来たときから、何度も東京2020大会を口に出して目標にしていたほど、ここに懸けた思いをずっと感じていました。また、本大会ではキャプテンを務め、アルバルク東京でも今シーズンはキャプテンを務めているということで、クラブとしては選手を輩出したことを非常に誇り高く感じています。私も田中選手のみならず、日本代表を応援していて、とてもレベルの高い大会ではありましたが、世界に少し近づけたような感じがしましたし、そこで奮闘している田中選手を見て、非常に誇らしく、そしてアルバルク東京が一歩ずつ前に進んでいると感じました。
アルバルク東京 代表取締役社長 林 邦彦さん
1964年生まれ。東京都町田市出身。同志社大学を卒業後、三井物産に入社。Bリーグが始まった2016年にアルバルク東京の運営会社の社長に就任し、現在までおよそ6年にわたりチーム運営を行う。
伊藤:田中選手は、オリンピックの日本代表としてすごいプレッシャーの中で戦い、そのプレッシャーを日本代表のキャプテンとして乗り越えてきたのですが、今シーズンは特に「アルバルク東京を引っ張って優勝させるんだ」という自覚と責任感をすごく感じています。その影響もあって、普段の練習から周りの選手、特に若い選手には「次は自分が日本代表に選ばれて活躍するんだ」という雰囲気があります。田中選手がオリンピックに出たことによって、彼にとってもチームにとってもプラスの影響があったと思います。
世界とのつながり
―――伊藤さんは高校生の時にアメリカに留学して、海外でのプレーを経験されていますが、バスケットボールの世界においては、このような経験は重要なことなのでしょうか。
伊藤:今、世界のバスケットボール界、特に男子のレベルが本当に高いです。自分が中学校を卒業してから留学したときも、レベルの違いを肌で感じました。これは日本ではなかなか経験できなかったことなので、世界のレベルを肌で感じることは、選手にとって非常に大事なことだと思います。それと同時に、留学することによって、その国の文化を理解する、経験できるということが、人としてもすごくプラスになると思っていて、当時、NBAで活躍していた選手との交流もいまだに続いていますし、その選手との会話や思い出、経験が今の自分にとってプラスになっているので、選手としてレベルアップするためにも海外挑戦というのはすごくプラスになると思います。
―――アルバルク東京からは馬場雄大選手が海外へ進出していますが、選手が海外のチームに移ることについて、チームとしてはどのように捉えていらっしゃいますか。
林:チームを預かる社長としては、戦力になる選手がいなくなることは大きな影響があります。馬場選手が海外挑戦する際の記者会見でも触れたのですが、Bリーグから海外に行くことが初めてだったんですね。これは野球でもサッカーでもあることですが、一度日本でプロを経験してから海外に行って、より羽ばたいてもらうことは、一つの可能性としてあるのではないかと思っています。
今後、体の成長度合いなどもありますが、ユースやクラブから海外に送り出すに当たって、トップチームだけではなく、クラブ全体のユースからどうやってグローバルな感覚を持って育成していくかや、クラブをどうやって海外から評価してもらうかというところも、選手の輩出における大きな決め手になると思っています。戦力的には厳しいですが、発展というところからすると、ぜひ、前向きに送り出していきたいと思います。
―――府中市内には多くの外国人の方が住んでいらっしゃいますし、コロナ禍前には多くの外国人の方が訪れていました。アルバルク東京も様々な国籍の方で構成されていますので、時には難しい部分も多いかと思いますが、こうした多様性のあるコミュニティの、良い面や調和するための工夫などはありますか。
林:私は仕事の関係で、ドイツとベトナムの2か国の海外駐在を経験しました。初めて海外赴任したとき、何が一番大変だったかというと、「安全」と「医療」でした。外国人選手で初めて来日した選手もいますので、アルバルク東京に来る選手・コーチの安全と健康の面をしっかりサポートし、彼らの持っているポテンシャリティ(可能性)をより高めるために精神的な不安を取り除いてあげることが大切だと思っています。日本は安全だと世界から言われていますが、特に府中のような、生活してる人が多い場所は、安心して活動にまい進できると思います。
伊藤:お互いの国の文化を理解し、尊重し合うことが大事だと思います。それぞれの国で習慣や文化、マナーは違いますが、日本にいるから日本の文化を押し付けるのではなく、相手の国の文化を理解したうえで、日本の文化をしっかり伝える。相手の国を知ろうと思い、聞いて学ぶということも大事になると思います。アルバルク東京にはスペイン・アメリカ・セルビアから選手やコーチが来ていますが、日本の文化などについての質問もたくさんしてくれます。日本人選手・コーチからも、アメリカの場合はどうなのか、スペインの場合はどうなのか、という質問・コミュニケーションがすごく多いです。また、日本人選手は英語を毎日勉強していますし、外国人選手も「ありがとう」「おやすみなさい」「お疲れ様」などの簡単な日本語を少しずつ勉強していて、お互いが努力してコミュニケーションをとっていくことがすごく大事だと思います。
―――高野市長は多様な方が共生できる地域作りに向けた取組についてどのようにお考えですか。
市長:お二人からもお話がありましたが、違いを認め合うことが大事だと思います。それぞれ皆さんが、自分と相手との違いを認め合う心をしっかり持つことと、伊藤さんがおっしゃった「言葉」が重要だと感じます。すぐに英語や中国語を使えるようにはなりませんが、行政から発する文章などにできるだけ多言語表記をするなどの取組を積み重ねていくことによって、府中に住む、あるいは府中を訪れる外国人の方がまちに愛着を持っていただける。そして府中の伝統や文化などを好きになっていただいて、さらに愛着を持っていただける、このことが、お互いのコミュニケーションが盛んになっていくことにつながると思います。
アルバルク東京と府中市とのつながり
―――2019年にアルバルク東京がFIBAアジアチャンピオンズカップで優勝した際には、府中市から市民スポーツ優秀賞を贈呈しました。府中市から見て、アルバルク東京はどのような存在ですか。
市長:チームに所属する選手の皆さん、スタッフの方も含めて、世界でトップの争いをするような選手たちもいらっしゃって、夢のチームのような感じがしています。さらに、2017-18、2018-19のBリーグチャンピオンであり、そして2019年のアジアチャンピオン、本当にすばらしい選手やスタッフがいること、これは市民のみんなが誇りに感じていますし、また、愛着を持って応援する市民の皆さんもたくさんいる、本当に大事なチームです。宝物です。
林:トヨタ自動車時代から、府中のこの地を拠点として、そこで鍛えた選手・コーチが表舞台に出ていって、Bリーグのチャンピオンに2年連続でなれた、そこからアジアチャンピオンにもなれたということに対しては、やはり府中市のバックアップなくしては成し得ないことだと思っています。支えていただいている市民の皆様の応援が、選手の力になっていると思っていますので、引き続き高野市長をはじめ、府中の皆様にはご支援をいただきたいと思っております。
―――府中市や他の区市町村における地域とのつながりとしてどのような取組をされていますか。
林:本社やホームアリーナの所在地など、様々な場所でサポートを受け、現在のアルバルク東京の運営がなされていると思っています。府中市では、ボールふれあいフェスタや商工まつり、節分祭、そして最近は、スポーツの魅力を感じながら、子どもたちが楽しく算数を学ぶことができるよう、アルバルク東京の選手などに関連した問題で構成される、算数ドリルを小学6年生の皆さんにお配りして、アルバルク東京を知ってもらうのと同時に、数字にも強くなってもらおうと思っています。いろいろと企画を凝らしながら、市民の皆様と、アルバルク東京がより近い間柄になれるように工夫しながらイベントなどに参加しています。
―――選手にとって、地域とのつながりで得られるのはどのようなものだとお考えですか。
伊藤:市民の皆さんの応援のおかげで僕たちはここまで頑張ってこられたという思いがあります。あとは特に子どもたちにもっと、「自分たちもこういう選手になりたい」だとか、「こういう目標を達成したい」と思ってもらえるような、お手本、目指したいと思うような選手・人間にならなくてはいけないと思います。目指したいと思うような選手・人間にならなくてはいけないと思います。また、市民の皆さんに、アルバルク東京を見ていて元気になったとか、活気が出たと思ってもらえるように引き続き頑張らないといけないと思うので、こういう地域とのつながりが自分たちのモチベーションにもつながっていると思います。
市長:ボールふれあいフェスタやその他のイベントなどで、アルバルク東京の選手・スタッフの皆さんにご協力いただいておりますが、選手のそばに子どもたちがたくさん集まってきて、すごく和やかな雰囲気で、もう目がキラキラ輝いているんですね。本当にいい経験を子どもたちができていると思っていて、こういう機会を作っていただける選手・スタッフの皆さんに心から感謝したいと思います。
アルバルク東京 アシスタントゼネラルマネージャー 伊藤大司 さん
1986年生まれ。三重県鈴鹿市出身。中学校卒業後、アメリカに渡り、モントローズ・クリスチャン高校、ポートランド大学を経て、2010年にアルバルク東京の前身であるトヨタ自動車アルバルクに入団。ポジションはポイントガード。2017年にレバンガ北海道に移籍。2018年から2021年まで滋賀レイクスターズでプレーし、現役を引退。昨年6月に、アルバルク東京のアシスタントゼネラルマネージャーに就任。
―――今後の地域とのつながり方の方向性を教えてください。
林:子どもが少なくなっていく一方、高齢化が進む中で、健康増進の分野では科学的に高いところを目指して運営しているプロチームが、その一部を皆さんに提供することや、一緒に何かを実施するという場が増えていくといいかなと思っています。本当に誇りに思ってもらえるような、どこで試合をやっていても、我々の代表だと、そんな思いになれる象徴的存在になれるように、競技面だけでなく社会においても貢献できるクラブになっていきながら、地域の皆さんと一体化したいと思っています。
―――トヨタ府中スポーツセンターでは、アルバルク東京のユースチームやアカデミー、そして地域の子どもたちにバスケットボールを教えるなどの活動をしていらっしゃいますが、このジュニア向けの活動拠点を府中市に置くことの意義はどのようなところにありますか。
林:東京の中でも有数のベッドタウンですし、市長もそう思っておられるとは思いますが、子育てするなら府中市で、という地域で、スクールやユースで鍛えた選手が、新たなところに挑戦していける拠点になるというのは、活動している意義が大きいと思っています。多くの子どもが成長していくところを見ながら、それを我々の楽しみにしていけるところも、ここで実施する意義として非常に大きいと思っています。
市長:我々の使命は、次の世代をしっかりと育てていくところにあると思います。学校や家庭だけで子どもたちを育むことができるのか、地域の力でどこまでできるのか、そういうことを考えたときに、やはり社会全体で子どもたちを育むことが重要だと思います。そこに、アルバルク東京の皆さんが子どもたちに直接働きかけていただけるのは、本当にうれしい限りであって、子どもたちがアルバルク東京に夢を持ち、その夢の実現に向けて、選手たちに育んでいただく、そういうすばらしい機会をいただいていると思います。
林:恐れ多いですが、マザータウンと言わせていただいているというところで、お母さんみたいに子どもたちを育てていけたら非常にいいかなと思っています。
新年の抱負・目標
―――最後に2022年の抱負や目標を伺います。
市長:2022年は府中市において、新しい総合計画が4月からスタートする年です。その年に、まずは「地域でつながる」ことの大切さ、これを改めて考え直す。そして「未来へ育む」。健康で、そして様々なことを学んでいく、そういった地域であり続けたいということです。次世代をしっかり作っていくということでもあります。そして「活力を創る」。新型コロナウイルスの感染拡大がずっと続いていて、地域経済や芸術文化に携わる機会も非常に少なくなってしまいました。ぜひ、みんなで元気に暮らしていくために活力を創っていく、そういう年にしたいと思っています。
林:「底力」としました。抱負や目標とは少しニュアンスが違うかもしれませんが、昨年、 新型コロナウイルス感染症の影響もあり、世間も含めて社会が塞ぎ込んでいる感じがします。私どもアルバルク東京も、昨シーズンは非常に悔しい思いをしておりますので、今シーズン、この2022年のチャンピオンシップを目指して、持てる力を全て出し切る。そういったときにおいては、表面上の力だけでなく、見えない力、いわゆる底力が大切だと思いますので、底力を発揮して、2022年は、いい年にしたいと思っています。
伊藤:「成長」です。ここまでコロナの影響でたくさんのことがあったと思いますが、ここから2022年、しっかり皆さんで成長し合って、上にいけたらなと思っていますし、アルバルク東京にとっても、今シーズンしっかり成長して、優勝を目指したいです。個人的にも選手引退後、初めてこの仕事に就き、分からないことばかりですが、しっかり日々学んで、これからどんどん成長していきたいと思って、成長に決めました。